From:昌子幹
「俺なら、そのへんに転がっている石ころでも売る自信があるね」
その昔、真顔で僕にそう言った営業マンがいました。その時は素直に「それはすごいな」と感心していたものですが、よくよく考えたらそんなわけがありません。万が一売ることができたとしても返品されるに決まってますし、そもそも誰もそんなもの欲しくないのです。
今思えばなんともバカバカしい話ですが、実はこれ、他人事だと笑ってもいられません。マーケティングやセールスライティングを勉強していくと、そしてそれがある程度うまく行き出すと「何でも売れるんじゃないか?」と思い、売れる可能性の低い商品をなんとかして売ろうとしてしまうことが少なくありません。ですが、それは錯覚です。なぜなら、、、
からです。実際、伝説のセールスライター、ジーン・シュワルツはこう言っています。
「見込客の押さえることのできない衝動はマーケットから生まれる。セールスコピーからではない。セールスコピーで商品への欲求を創造することはできない」と。
セールスコピーの役割はあくまで、すでに見込客の心の中にある欲求を取り上げ、その欲求を育て上げ、商品へと橋渡しをすることです。ゼロから欲求を創り出すことなど誰にもできないのです。にもかかわらず、市場の欲求を無視し、ゼロから欲求を創り出そうとすると痛い目を見ることになります。例えば、、、
1940年代後半のアメリカでは、機能性よりも自分の生活水準をひけらかすより大きな車が大衆に求められていました。ところが、クライスラーはこの流れに抵抗し、コンパクトで機能的な車で勝負に出た結果、大きな損失を出し危機に陥りました。
それから10年後、今度は馬力の大きい車が市場で求められるようになりました。前回の失敗で教訓を得たクライスラーは、今度はこの流れに乗って成功することができましたが、今度はフォードがこの流れに逆らい、安全性を追求した車で市場に挑み大きな痛手を負いました。
大衆の欲求の流れに逆らった結果、悲惨な結末を迎えた例は他にもたくさんあります。
かくいう僕も、昔いた会社で同じことを経験しました。その会社では、テニスや野球などを実際の動作と同じようにプレイしながら遊ぶ「体感ゲーム」と呼ばれるTVゲームで大ヒットを連発し、ベンチャーながら飛ぶ鳥を落とす勢いで成長していました。そして、その勢いを借りて新たな市場へと進出しました。体感ゲームを外観だけ変えてほぼそのままの形でゲームをしない人向けに「楽しみながらできるフィットネス商品」として売り出したのです。
と言えば聞こえがいいですが、要は市場の欲求を無視し、自社の都合を押し付けたわけです。当然のことながらうまくはいきません。そして間も無く、それにとって代わる商品が出てきました。任天堂のWiiです。Wiiはあくまでゲームという枠組みからはみ出すことなく、体感ゲームのエッセンスを活かしながら更に洗練させることで、普段ゲームをしないようなユーザーまでも取り込み大成功しました。
ところが、WiiやNintendoDSでわが世を謳歌した任天堂もまた、やがて大衆欲求に楯突きました。スマホです。任天堂は自社のプラットフォームにこだわるあまり、スマホでゲームをしたいという市場の大きな流れに逆らってしまったのです。その結果、あっという間に凋落してしまったのはご存知の通りです。(最近スマホゲームで復活したかに見えますが、ご存知の通り、あれは任天堂の商品ではありません)。
エスキモーに氷を売ってはいけない
少し前、「エスキモーに氷を売る」という本がベストセラーになりました。ですが、ビジネスとして考えるならエスキモーに氷を売ってはいけません(そもそも、この本ではエスキモーに氷を売った話は出てきません)。少なくとも、防寒具や温かい飲み物の方がはるかに売れるでしょう。
繰り返しますが、マーケティングやセールスライティングの役割は、あくまですでにある見込客の隠れた欲求を見つけ、その欲求をあなたの商品やサービスへと橋渡しすることです。ゼロから欲求を創ることではありません。とはいえ、もちろん見込客が抱える欲求はひとつではありません。いろいろな欲求がありますし、時とともにその欲求も変わり続けます。その中から、どの欲求に訴えればいいか?
実は欲求には3つの側面があると言われています。それが、、、
1)緊急性:その欲求はどれくらい緊急性があるか?
2)持続性・反復性:その欲求はどれくらい続くのか、繰り返されるのか?
3)規模:その欲求を抱えている人はどれくらいいるのか?
これらの度合いが強ければ強いほど、そしてその欲求の流れをセールスメッセージであなたの商品やサービスにチャネリングすることができればできるほど、それがヒットする確率は格段に高くなるでしょう。
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