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Hathaway(ハサウェイ)のシャツを着た男

2017.7.22 | ,
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From:マイケル・マスターソン

「世界で一番興味深い男」を見たことがありますか?

その人物はDos Equis(ドスエキス)ビールのテレビコマーシャルの中で、いつも美しい女性に囲まれている、いかつい容貌の白髪男性です。

あるエピソードでの彼は、第三世界の軍司令官と腕相撲をして勝ったり、ハイイログマをワナから逃がしてやったりしています。もう1つのエピソードではナレーターの説明が入り、彼が非常時には敵国からも連絡がくるような存在であったり、ただ単に興味を引かれるという理由で頻繁に警察から職務質問をされていることがわかります。

あなたが宣伝広告を学んでいる学生なら、これがデイヴィッド・オグルヴィの有名な広告キャンペーン「Hathawayのシャツを着た男」を真似たものだということがわかるでしょう。

この広告の歴史はぜひ知っておくべきですよ。

簡単に説明すると、1951年、メイン州ウォータービルにあるシャツメーカーの社長、エラートン・ジェッテは、当時まだ小さかった自分のビジネスを全米規模のブランドにまで成長させたいと思っていました。彼にはあまり資金がなかったのですが、デイヴィッド・オグルヴィが広告業界の凄腕だということは聞き知っていたので、彼と会う予約を取りつけてオフィスまで会いに行きました。

そして、デイヴィッド・オグルヴィに次のように言ったのです。「私は広告費として3万ドル(300万円)しか出せません。あなたが普段受け取っている金額に比べたら、ずっと少ないことはわかっています。でも、あなたがもしこの仕事を引き受けてくださったら、私はあなたの顧客の中でも最大の得意客になるはずですよ」

もしジェッテがこれ以上何も言わなかったら、オグルヴィは彼をオフィスから追い出していたでしょう。しかしそこでジェッテは、偉大なセールスマンを納得させる言葉を言い放ったのです。

オグルヴィに「Yes」と言わせた言葉とは?

「オグルヴィさん、あなたがもしこの仕事を引き受けてくださったら、次のことをお約束しましょう。将来私の会社がどれほど大きく成長したとしても、永遠にあなたに広告作成を依頼し続けますよ。そして、あなたの広告文の一語一句とも絶対に変更することはしません」

ここに学ぶべき大きな教訓があります。それをじっくり見ていきましょう。

私の意見ですが、エラートン・ジェッテが言ったことはかなり天才的でした。たった2つの短い文章で、広告業界で最も力のある男を説得したのですからね。それと同時に、彼がこれから非常に裕福になることも約束されたわけです。

私のことをデイヴィッド・オグルヴィのような存在だと思って、ぜひ会ってほしいと全く面識もない人から毎週手紙が送られてきます。そして実際に会ってみると、彼らは単刀直入にこう言うんですね。「マスターソンさん、あなたが協力してくれれば、私は裕福になれるんです」

私にどうして彼らを助けたいと思う気持ちや、そんな時間があるなんて思うのでしょうか。そして彼らは頼んだら頼みっぱなしで、何かを見返りとして提供しようなんていう気はさらさらないのですよ。

ジェッテの3万ドルの広告費用のうち、オグルヴィのポケットに入ったのは3000ドル(30万円)だけだったかもしれません。それは当時でも取るに足らない金額で、少なくともゼロよりはましな金額でした。それにも関わらず、契約を確実なものにしたのはジェッテがした2つの約束なのです。

オグルヴィに会いに行く前のジェッテは、彼との関係を築けるチャンスは1度しかないことを知っていました。そして直感的に理解していたことは、オグルヴィは大変成功しているけれども、2つの大きな悩みを抱えていたということです。

オグルヴィは上得意客たちをいつかは失うかもしれないことを心配し、また顧客たちが自分の広告文を好き勝手に変更して台無しにしてしまうことをひどく嫌っていました。そこでジェッテは自分の要求だけにフォーカスをするのではなく、オグルヴィにとってもとてつもなく価値があることを提供できないかと一生懸命に時間をかけて考えたのです。

ジェッテがその2つの約束を口にしたとき、オグルヴィは目の前にいるその男が、いつかは自分のパートナーになるビジネスマンであることを確信しました。ジェッテは自分にマーケティングを任せてくれる大変信頼できる男で、更に生涯に渡って忠誠を尽くしてくれる存在だということを確信したのです。

大ヒットした「Hathawayのシャツを着た男」広告とは?

ここで、シャツ広告の話に戻りましょう。

依頼を承諾してからのオグルヴィは、何日もかけてジェッテの顧客層を綿密に調査しました。そして彼は多くのアイディアを思いつきましたが、その中から最終的に選んだのは「男のロマンを感じさせる場所に、Hathawayのシャツを着た気品ある男性がいる」というイメージにちなんだ広告キャンペーンでした。彼はウィリアム・フォークナーに似たモデルを選び、最初の写真撮影の予約をしました。

撮影スタジオに向かう途中、彼は均一雑貨店の前を通りがかりました。そこで安いアイパッチを何個か購入し、撮影時に数回だけモデルに着用してもらったのです。

アイパッチをつけた写真を何枚か見た瞬間、彼はこれから何が起こるかがはっきりわかりました。

「Hathawayのシャツを着た男」の広告キャンペーンは瞬く間に成功を収め、国中の新聞に掲載され、「タイム」誌、「ライフ」誌、「フォーチュン」誌にも記事として取り上げられました。そのうちにアイパッチをつけてテレビ出演をする司会者や、赤ん坊や犬…それに牛までアイパッチをつけた広告をだす会社まで現れたのです。「ザ・ニューヨーカー」誌の漫画には、3人の男がシャツの洋品店のショーウィンドウを眺めている一コマがあり、その次のコマでは3人ともアイパッチをつけて店から出てくる様子が描かれているほどでした。

オルグヴィは、アイパッチをつけるアイディアはルイス・ダグラス駐英大使の写真から思いついたと言っていました。ダグラス大使はイギリスで釣りをしていたときに、目を負傷した過去があります。しかし、空想の世界に貴族風の男性がいるというこのアイディア自体は、ジェームス・サーバーが書いた『The Secret Life of Walter Mitty』(邦題『虹をつかむ男 ウォルター・ミティ氏の秘密の生活』)から得たと言っていました。他にもケネス・ローマンが『The King of Madison Avenue』(邦題『マディソン・アベニューの王様』)の中で、そのアイディアはデイヴィッド・オグルヴィの知られざる私生活の中から生まれた可能性もあると述べています。オグルヴィがまだ若い重役だった頃、他の皆がグレーのフランネルスーツを着ている中で彼は肩マントをはおったり、蝶ネクタイをする傾向があったそうです。

「Hathawayのシャツを着た男」広告が成功した理由

もちろん、アイパッチだけが理由で広告が成功したのではありません。モデルとその周りのセッティング、そして広告文そのものが上手く合わさったからこそ成功を収められたのです。

彼の広告文も素晴らしい内容でした。最初の広告の一文は次のように始まっています。

「ソースティン・ヴェブレンを慕う弟子たちは、きっとこのシャツを見たら蔑んでいたことだろう」

広告を読んだほとんどの人は、ソースティン・ヴェブレンが誰なのかなど全く知りませんでしたが、きっと彼は威張った貴族のような人物であろうと推測しました。そして、Hathawayシャツを着て、アイパッチをしたハンサムな白髪モデルの写真の下にこの一文を載せることで、さらにアメリカ人の想像力をかき立てたのです。私たちは皆、貴族のような金持ちを嫌いますが、実は自分もそのようになりたいと思っているところもあるのです。

この広告にはもう1つ素晴らしい点があります。非現実的な場所にモデルを置くことによって、空想的な要素が加えられているのです。オグルヴィの言葉によると「ストーリーアピール」があるのですね。

オグルヴィはかつての広告代理店のリサーチ責任者であったハロルド・ルドルフが書いた本を読み、ストーリーアピールという概念を初めて知ったと言っていました。前述のケネス・ローマンが自著の中で述べたところによると「広告が商品のシャツと同様に、それを着用しているモデル男性を強調」したのは初めてのことだったそうです。

ではここから「世界で一番興味深い男」の話に戻りましょう…

私はDos Equisコマーシャルのファンですよ。なぜならこれらのコマーシャルが、デイヴィッド・オグルヴィへの敬意を表しているからです。更にHathawayのシャツ広告の中にある、重要な要素の再現にも成功しています。Dos Equisもハンサムで白髪のモデルを使っていたり、アイパッチをつけたり、反貴族的な雰囲気を醸し出しています。(何と言っても彼らの商品はビールですからね。)

そこにはロマンスやストーリー性もあります。毎回新しいコマーシャルがでるたびに、この「最も興味深い男」についての新しいエピソードが語られるのです。

しかし、そこには1つだけ残念な点もあります。

コマーシャルのコンセプトは非常に印象的なのに、それに見合うほど十分には商品がアピールされていないことです。

Dos Equisの広告を思いだせと言われれば、まず男優の顔が思い浮かびますね。そして、背景にいる美しい女性たち。その男性は、多くの女性たちが非常に魅力を感じるタイプだということもよくわかります。そして彼は何かを飲む…あれっ、ちょっと待ってください。彼が飲むものは何でしたか?

ここが問題点です。

「世界で一番興味深い男」はDos Equisを好むのだと最後にはわかるのですが、べつにそれがPabst Blue Ribbon(パブスト・ブルー・リボン:格安ビール)でも構わなかったわけですね。

この大変優れた広告キャンペーンにおいて、これだけが大きな欠点です。一方、オグルヴィは商品の名前をヘッドラインの中にしっかり含めました。広告の中の男性がHathawayのシャツを着ていることが、このストーリーにおいて必要不可欠な要素だったのです。

「現代のビジネス界では、いくらクリエイティブで独創的な思考を持っていたとしても、売れなければ意味がないのだ。」
デイヴィッド・オグルヴィ

面白いストーリー、アイディア、写真によって見込客からの注目をしっかり集めることは、どんな広告キャンペーンにおいても非常に重要ですね。しかし、それだけでは不十分なのです。それを見た人にその商品を買ってもらわなければなりませんからね。そのためには、顧客がヘッドラインを読んで最初に持った印象を最終的には購入したいと思うような感情へとつなげていかなければならないのです。

AWAIのセールスライティングのプログラムではこのつながりを「金色の糸」と呼んでいます。これはいたってシンプルですよ。糸の先端に商品がつながれており、もう一方には見込客の心がつながれています。広告の中に含まれるどんな要素も、見込み客と商品の両方につながっていなければなりません。そして、このつながりはピンと張り詰めたものでなければならず、糸がほんの少しでもたるんでいればセールスは失敗に終わります。

このエッセイを次の言葉で締めくくりたいと思います。

私が持っている最もパワフルなマーケティングの秘密の中から、今回5〜6個をあなたに紹介しました。これを読み終わってから、それらを活用することもせず。忘れてしまうなんていう間違いは犯さないでくださいよ。少なくとも5〜6回は読み直して内容についてよく考えてください。そうすればあなたが億万長者になれることをお約束しますよ。

-マイケル・マスターソン

マイケル・マスターソン

年商100億円以上の会社を2社、50億円以上の会社を2社、10億円以上の会社を10社以上保有、ダイレクト・レスポンス・マーケティングの世界で屈指の実績を誇るスーパー起業家。その事業構築の手腕は多くの起業家、マーケッターから高く評価され、推薦分などを書くことがないジェイ・エブラハムが著書に序文を寄稿するほど。AWAIのファウンダーの一人であり、450,000人の会員を誇るメールマガジン「Early to Rise」のファウンダーでもある。

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